コロナが広がっている中で受検を見送ってしまいましたが、一通りの勉強はしてきたのでIT業界の人間から見た時に中小企業診断士で学ぶ知識が実務(IT業界の仕事)に役立つかという観点で振り返ります。
#試験の傾向や難易度などを述べるものではありません。
想定する読者
(目次)
知識を習得するという観点では、IT業界で働く中で営業や新規企画系のキャリアの方であれば多少の接点がある科目がありますが、開発をしているSEのキャリアであると経営情報はもちろんですが、あとは運用管理であれば多少応用が利く分野です。
一方でこの知識がIT業界で役立つかというと、正直即効性はかなり低いです。つまり中長期的な意義を持つか、副業などコンサルとして活動することが目的に必要だと思います。
サマリ
IT業界の仕事にこれら科目の知識が活かせるかというと、
企業経営理論:理論中心のため、ある程度の職責者であれば部の戦略などを考える際に求められることがあるでしょうが、あまり実践編としては使いにくいものが多いです。
運営管理:IT業界で利用することは期待できないですが、システム開発の品質管理などが製造業で培ってきたプロセスを経て構成されているということを理解することが出来ます。
経営法務:たとえ営業の方であっても、営業契約の話ではないのでその点では実用性は低いです。経営企画など株主総会などに関係する方であれば多少は関係ありです。しかし、知財に関してはとても重要ですし、役にも立ちます。
財務・会計:実用性は低いです。BS/PLから事業把握が出来るわけでもなく、この分野の導入知識程度どまりです。企業で働く人は社内の管理会計に詳しい方が即効性はあるでしょう。
経済学・経済政策:IT業界ではほぼ無縁の知識です。そのため利用する機会も皆無です。
経営情報システム:十八番なので実務に関係はしますが、ここで何かすごく有意義な新しい知識があるかというと本業での知識量の方が多いので、学ぶという意味での価値はあまり高くないです。
なお、中小企業経営・中小企業政策については、実務経験がなく、今回の記事では割愛させて頂きます。
サマリをみてすごく否定的にとらえる方もいるかもしれませんが、IT業界で働く上ではその程度の効果です。つまり目的は違うところに設定しないと試験を受けても役には立ちません。
以下各科目についての詳細です。
#再三で恐縮ですが、合格者ではないのでIT企業に勤める社会人が感じる科目特性について述べるにとどめます。
企業経営理論
中小企業診断士を志す方の多くが経営コンサルに興味を持ってのことかと思いますので、この科目はとても気合が入ると思いますし、知らないことを知ることで刺激になると思います。私も実際そうでした。経営学のビジネス書などから比べるとやや定説というか古典とまでは言わないまでも一定の理解が得られているものが取り扱われています。その点でトレンドまではカバーしていません。
そしてこの試験、問題になると様相が変わります。というのもこれ覚えてないといけない?と思うものが結構問われます。しかも基礎知識を応用させて解けるかというと意外にそうでもなくて、文章題自体も多少言い回しに癖もあるので、ある程度知識をしっかりと覚えないといけない感はあります。そうなると急にこの科目は、似ているような考えや手法がある中で、それをどう区別して覚えるかという難解さが出てきます。量も多いので、またそこも曲者です。つまり試験対策という要素が求められ、実務への活用からは距離が出てくる科目です。
どこで活かせる?
IT業界の実務に活きるとすると、部の戦略を考えることがある/経営企画部にいる方であれば可能性はあります。ただ、悩みを解決するほどの示唆が得られるかというとそこまでではないので、すでに知っている知識を体系的に整理することが出来る程度です。
運営管理
IT業界でも特に開発系のプロジェクトに属したことであれば、半分はイメージしやすい科目です。この半分というのはものづくりに関する分野ですので、品質管理や作業分担などの手法やメリットデメリットが体系的に整理されています。工場勤務ではないから馴染みがないというものでもなく、本質的にはシステム開発もこれら製造業で培われた管理手法が適用されているのでその点でとても馴染みやすいです。
一方でもう半分は、まちづくりや店舗という売り場側の商業に近い分野になります。これはIT業界での知見の出番はほぼありません。むしろ私の場合は飲食店やサービス業のお店でアルバイトしていた時のほうがイメージしやすいテーマです。店長とかエリア長はこういった知識が必要なのか、と思って眺めるとちょうど良いかと思います。あとは普段の買い物などでも店舗側の人の気持ちで目を配ると親近感が湧くかもしれない分野です。
どこで活かせる?
システム開発などに役立つかというとその可能性は低いです。最近ではシステム開発手法も製造業とは異なる独自の手法が確立されてきているので、参考知識どまりです。
経営法務
こちらは知財はとても重要ですが、それ以外はIT業界の経験はほぼ活きないです。営業であれば契約交渉などもあるのではと思いますがそういった内容の法務ではないです。会社法を軸足とするものですので、いわゆる損賠や機密情報などといった営業系の法律の出番は期待できません。一方で知財は登録手続きなどの申請周りや決まりは社内に専門部署があるようなことが多いですが、知識としては重要です。
どこで活かせる?
学んだ知識を実務で使う機会は多くはないです。会社の経営企画とかにいる場合には株主総会などの開催などで接点は出てきます。定常的な運用についてはルール化されているかと思いますので、そのルールの背景にこういった法律があるということで理解を深くすることどまりです。知財であっても頻度という意味では少ないですし、知財室のようなところと連携することが多い企業ですと自身が何かしなければということは少ないです。知財室というだけあって専門的な分野になるので、そういった方とスムーズにコミュニケーションをする上で役に立つことは間違いないです。
財務・会計
原価計算はシステム開発や営業においても必須なので十分活かせます。また前受金や前払金といったような会計処理も実務でよく利用する範囲です。ハードウェアや自社ソフトウェアの減価償却もなじみがあるところかと思います。それ以外の分野は、簿記を勉強したことがなければ、初めて触れることになるでしょう。
どこで活かせる?
これらの用語の意味を知っているという程度で、ほぼ活かす機会はありません。原価管理についても大体は社内ルールがありますし、財務指標を使って営業戦略を立てるには企業分析軸が弱いので。指標の定義や説明はあるんですが、それが何を意味するのかの実践的な知識がこの科目の勉強だけでは身に付きません。
経済学・経済政策
ここは業務には関係しない分野になります。特に景気や金利などが関係する業界ではないのでIT業界の人からすると、頑張って勉強する科目でしかありません。
どこで活かせる?
仕事に活かせるかというと出番はないでしょう。ビジネスマンとして景気動向くらい把握していないとと思う方であれば、この知識は重要です。株や資産運用の話は耳にすることがあっても、金利や失業率、規制緩和などの関係性について知る機会は多くなく、政策がどういった意図で考えてられているかが良く理解できます。
経営情報システム
IT業界の方からすると点数が取れるかはさておき、聞いたことがあるというものが多くではないかと思います。情報処理試験などを受けたことがある方であれば、ほぼ同じような範囲の情報になります。
どこで活かせる?
あまり中小企業診断士のこの科目を通じて知識が増えるかというとそういったことはなく、試験対策として知識を厚めにするところを見極めて、補足情報を足すという感じになると思います。その追加情報は、仕事の中で触れてこなかったことからも即効性はないですが、体系的に理解することや昔覚えたけど使うことが少ない情報を掘り起こすような役割としては重宝します。
この業界で働く社会人としてはしっかりとカバーしておきたい領域であるのは間違いないです。なぜなら、中小企業診断士試験を合格した方はこの知識を獲得していることになるので、他の中小企業診断士と差別化するためにもここはさらっとクリアしておきたいというロジックです。
まとめ
さて、科目別にIT業界での経験が役に立つかあるいは学んだあとに活用できるかという点で述べましたが、やはり知らずに過ごしてこれたということからこの学習を通じてビジネスですぐに役に立つかというと弱い印象です。
一方で中小企業診断士として活躍するためには、自然に身につく・触れるということはなく、しっかりと学習する必要があるということです。IT業界であっても、ポジションがあがっていくと、より大局的なものの見方が必要になるので、土地勘という意味でも中小企業診断士の学習科目は糧にはなります。即効性という点で弱い、というだけです。経営者と話をする際に、どういった引き出しを自分に持っているか、つまりはそうゆうことです。なかなか身につける機会がない知識を習得するためとなるとそれはそれで貴重な機会です。
ではなぜ私が受検を考えたかは以前の記事がルーツです。↓